OSEC-Iの概要
工作機械のCNCに代表される産業機械のためのコントローラは、1970年代に登場したマイクロプロセッサの進歩などにより高速・高精度化がなされると同時に、マンマシンインターフェイス(MMI)・自動ツール交換装置・計測装置・パレットチェンジャなどの周辺機器の統合化、すなわち機能集約化が急激になされてきた。こうしたコントローラに対して、OSEC-Iではエンドユーザからの要求事項を表 1-1のような形でまとめてみた。しかしながら、現状で『オープン』といわれているものを含め、CNCなどのコントローラではこういった要求を満足できないでいる。その理由はこれまでの機能集約化がマイクロエレクトロニクス技術の応用に留まり、オープンな生産システム環境や機能ベースのアーキテクチャに基づいたものでなかったからである。
再構成性(リコンフィギュレーション) | 自動車のシリンダブロックの加工ラインでは作業の80%が高精度を必要としない荒・中加工で、加工方法も穴明け・平面削りが中心である。多品種の部品を加工するジョブショップシステムでは使い勝手の良いMMIが必要であるが、省力・無人化の方向にある加工ラインでは高機能MMIは不必要である。使用される環境と使用するユーザに合わせて、NC機能を拡大縮小可能なこと。 |
スケーラビリティ | CNCを構成するソフトウェアとハードウェアの機能を独立させ、制御軸数や特殊サイクル機能、特殊高トルクモータやNCプログラムの記憶容量の選択など自由に着脱可能なこと。 |
NC 言語 | EIAコードはマクロ化やコントローラベンダ毎の差別化機能により複雑化してきた。CAMなど上位システムや周辺システムとの結合時に不具合が多い。 |
新機能 | 金型加工では磨きを省くためCNCに曲面の補間機能が必要である。機械の高精度化にはセンサフィードバック制御が必要である。これら特異分野のエキスパートであるサードパーティが参画できる環境が求められている。 |
インテリジェント化 | 工具交換はNCプログラムの補助機能で指定するが機械メーカごとに指定方法が異なる。また剛性のある機械とない機械では切削条件は異なる。個別の機械に対してNCプログラムが互換性を持つためには、機械が異なっても同じ動作をするCNCのインテリジェント化が望まれる。 |
生産システムのオープン化 | 最新のオブジェクト技術・ネットワーキング技術などに対応していない。進んだ3次元CAD/CAMやモニタリングなどのパッケージソフトウェアの活用ができない。 |
そこでOSEC-Iでは図 1-4に示す参照モデルを規定することで真の『オープン』コントローラのためのアーキテクチャ策定を目指した。このOSEC-Iアーキテクチャでは、コントローラは生産システムの一部として定義され、ここでは設計データから加工までの情報の処理手順が明確にされている。具体的には、今までブラックボックスだったCNCを含めた生産システムを、処理階層として入力処理を主に行う階層・演算を行い軌跡を創成する階層・制御を主とする階層など7階層に分類し、各階層で処理すべき内容を定義した。
またOSEC-Iでは、1960年代から使われてきたが柔軟性・拡張性・可搬性などの点において問題が数多く指摘されるEIAコード(Gコード)に代わるものとして、FA機器記述言語FADL (Factory-Automation-equipment's Description Language)も提案した。FADLは式・繰り返し・条件分岐といったプログラミング言語としての制御構造を持つスクリプト記述型の言語であるPerlをベースに、工作機械の加工プログラムのための拡張として、工作機械の仕様・工具・治具・I/O接点など機械依存情報の抽象化、自由曲面・自由曲面の数式による直接表現、原始的な軸動作記述などの機能を追加している。マクロや関数からなるライブラリによって加工プログラムのモジュール化をすすめるいう効果を目指した。またNCデータデコーダというトランスレータを介することにより、EIAコードによる過去の資産を継承するメカニズムも考慮している。