成果と課題
コントローラのオープン化はエンドユーザ・機械メーカ・コントローラベンダ・ソフトウェアベンダ・システムインテグレータなど、それぞれの立場に応じてそれぞれの意義を持っている。エンドユーザにおいては、まず機械導入時イニシャルコストの透明化、機械設備を変更する際の機械を構成するユニット単位の更新によるライフサイクルコストの低減、ユーザ自身による独自なFAシステム設計の実現といった点で、従来の専用CNCによる機械全盛の時代には無かったメリットをもたらす。機械メーカにおいては、CNCを構成する各機能ブロックが部品化しその選択範囲が広がることによって、環境や仕様に合った最適な部品選択が可能になり、部品コストや開発コストの削減につながる。更に独自仕様の機能開発、エンドユーザが要望するFAシステム設計へのオプショナルな対応がより柔軟に実現できる。コントローラベンダにおいても、インタフェース公開とその標準化およびオープンコントローラによる標準的なプラットフォームの確立によって、異業種ソフトウェアベンダの参画がうながされるといったメリットがある。
以上のようなコントローラのオープン化の意義を踏まえ、OSE研究会では4つのワーキンググループを中心にオープンアーキテクチャの詳細について検討し、試作とテストを行ってきたが、この結果OSEC-IIとして以下のような成果を得ることができた。
- マシンフレームワークによるマンマシンインターフェースシステムの開発
送り軸・主軸・工具・ATCなど工作機械の持つ様々な資源を論理的に分析し、各資源の属性・機能を明示的に定義してオブジェクト指向関連図(ORD)にまとめ、これらの抽象的なモデル(マシンリソースオジェクト)をもとに機械系へ働きかける操作・表示系用のクラスライブラリとソフトウェア開発システム(マシンフレームワーク)を開発し、機械操作画面を数例試作して実機へ組み込み評価を行った。オブジェクト指向プログラミングを全面的に採用しており、部品の組み合わせで短期間に効率良く表示・操作画面を開発できることが実証された。またマシンフレームワークとCNC制御部は、リソース制御と呼ばれる機能ブロックを介して情報交換換が行われており、ハードウェアへの依存性が低く、試作した表示・操作用のアプリケーションソフトは他のテストステーション上でも動作可能で、ソフトウェアの再利用性が立証された。
- OSEL言語の開発
加工ノウハウの組み込みの可能な新しいNC言語OSELの言語仕様について検討し、加工特徴に対応した加工法を記述するクラスライブラリ・個別の機械に依存するクラスライブラリ・工具のクラスライブラリの3つのクラスライブラリを試作し、実機で加工プログラムを実行して機能を確認した。
- マシン制御へのインターフェース仕様と言語プロセッサの作成
軸移動等を生成するためのマシン制御へのインターフェース仕様をOSEC
APIとして定義し、ライブラリの形で実装してみた。またこのマシン制御インターフェース仕様に合わせたEIAコードデコーダとOSEL実行系を作成し、マシン制御ライブラリと結合して従来のNCプログラムおよびOSEL-Xプログラムを実行し、ワークを加工して動作を確認した。
- サーボ制御部へのインターフェース仕様の作成
サーボ制御とのインターフェイスをOSEC APIとして定め、この仕様に合わせてマシン制御とサーボ制御のソフトウェアを開発し、サーボドライブと接続して正常に動作することを確認した。
以上に述べた内容の詳細については、OSEC-IIのドキュメントおよび実証システムの展示会を通じて一般公開することにしている。
一方、現在においても幾つかの克服すべき課題が残されている。
- マルチベンダにより提供される機能の組合わせによるシステム不具合、すなわちシステムエンジニアリングの問題については触れられていない。
- システムの不具合により事故を引き起す場合の責任の所在、すなわち製造物責任の問題についても触れられていない。
- インターネットやイントラネットの応用はシステムリソースへの自由なアクセスを可能にし、CAD/CAM統合や電子商取引きなど多くのメリットをもたらしてくれるが、その反面、外部からの不法侵入などセキュリティに関する問題は解決されていない。
これらは今後の課題であるが、OSECで研究を進めているオープンコントローラのアーキテクチャ化や標準化が解決に貢献するものと考えている。もちろんそのためには、同様の先端技術の標準化に取り組んでいる分散オブジェクト技術のOMG、製品データの標準交換形式のSTEP、CALS、そして同じオープンコントローラのOMACやOSACAなど幅広い国際的に協調した研究開発作業が不可欠である。