ステーションA
ステーションAのねらいは2つある。一つは、PCベースのコントローラを使用して工作機械を構築し、切削加工を行うことである。二つ目はそのコントローラを実現するにあたってPCの資源を最大限活用することである。これは言い換えればコントローラの機能の多くをPC上のソフトウェアに置き換えていくことを意味する。例えばサーボドライブへの指令においては多くの場合専用のハードウェアを必要とするが、補間処理までをソフトウェアで行うことによってハードウェアに依存する部分はサーボドライブへの物理的変換だけになる。この部分はハードウェアにせざるをえないが極めてシンプルなハードウェアになることは明白であり、オープンで、モジュラーでスケーラブルなコントローラを目指した姿である。
図 4-3 ステーションA全景
コントローラの機能モジュールはOSE研究会の各WGの成果および市販品として市場に出回っている製品を使うことを原則としている。この構成によって機械メーカ、ユーザ、研究者がコントローラにオリジナルな機能を組み込むことが可能になるものであり、オープンNCの原形と見なすことができる。
PCは工作機械に組み込む現実的な姿の例として、IBM製のパネル・コンピュータを使用した。これはFA用途にデザインされたものである。このパネル・コンピュータはPentium、100MHzのプロセッサと容易な入力操作を実現するタッチパネルおよび将来の拡張用途のためのPCMCIAを2スロットを装備している。さらに、3つのISAカードスロットを備えた拡張ユニットを取り付け、MAGICボードを取付けている。
コントローラとしての本質的な機能はPC上のソフトウェアとして実装されている。大きく大別すると機能モジュールの一つ一つがそのソフトウェアであり、それぞれこの研究会で作成されたものである。これは共通のインタフェースをベースにして、異なるメーカが作成した機能モジュールを統合していることと同じ状況である。
パネル型コンピュータを組み込んだ操作盤の外観を図 4-4に示す。
OSELステーションで生成された加工用データ(OSEL)はネットワーク経由でステーションAにファイル転送され、コントローラ内のOSEL−Xエグゼキュータで処理され、マシン制御機能部で補間処理を行い最終的なサーボ指令データが生成され、デバイス制御機能部でサーボ制御処理が行われ、サーボモータの駆動に変換される。
本ステーションで使用しているサーボ系はMELDASサーボである。駆動アンプとモータは市販品である。コントローラ側(PC)にはMELDAS MAGICのボードが使用され、ボードと駆動アンプとの間は高速のシリアル通信で接続されている。
機械を運転するためのもう一つの重要な制御要素であるPLCは、MELDAS MAGICのボードに内蔵されたPLC機能を使用した。既存の機械を実証機に適用していく上でPLCで実現されている機能をOSECの実装モデルに組み込むことは議論が不足しており、今後の課題である。この実証機では既存の機械のPLC処理を極力流用する方針で行っている。
PC | IBM-7344®:Pentium , 100MHz
HDD:500MB RAM:16MB タッチパネル 拡張ユニット |
サーボ機器 | ボード : MELDAS MAGIC®(三菱電機)
送り軸(X,Y,Z) 駆動アンプ: MDS-A-V type® (三菱電機) モータ : HA type® (三菱電機) 主軸(SP) 駆動アンプ:MDS-A -SP type® (三菱電機) モータ :ビルトインモータ (三菱電機) |
I/Oユニット | リモートI/O: FCUA-DX® (三菱電機) |
この実証機は先に述べた2つのねらいを十分に達成できた。マシニングの切削加工として、 ATC(工具交換)や主軸制御を行ったことに加え、フライス・ミーリング・ドリル・タップの基本加工を実行することができた。またコントローラの機能の多くをソフトウェアで実行できることも確認された。
PCにはPentium 100MHzのCPUを載せたものを使用したが、汎用のOSにいくつかの機能モジュールを実装し、実時間制御を行わせるには処理速度の面でまだ不足の感がある。また汎用のOSで実現できる制御サイクルは数十msecであり、マシニングセンタに適用するにはもう一桁向上させる必要がある。このステーションではサーボへの指令を送る途中にバッファを入れて、その差を吸収させた。
また本ステーションで使用した機械を含めCNC装置を使用した工作機械はコントローラとしてNCとPLCが同時に使われている。そしてこの両者の間は情報伝達が大量にかつ高速に行われている。このような結合を実現する手段として汎用的なものはなく、専用的なものに頼らざるをえない。このステーションではNC機能だけが汎用PC上に実装され、PLCは専用のものを使ったのでこの間を結合する通信手段において高速な信号授受を実現することはできなかった。従って、NCとPLCが連動して行われる機能(工具選択、工具交換、インタロック処理)は必然的に性能を落として行うことになった。これらのことはPLCというコントローラのあり方を含めて今後議論されていかなければならない。