
- OSECアーキテクチャの理念
- アーキテクチャのねらい
- アーキテクチャ策定における基本方針
- 基盤となる技術
- OSEC-Iとの関連
- 成果と課題
- アーキテクチャのねらい
OSECアーキテクチャでは、エンドユーザ・機械メーカ・コントローラベンダ・ソフトウェアベンダ・システムインテグレータなどが、独自の付加価値を容易に加えるための標準的なプラットフォームとなる産業機械のためのオープンコントローラを定義することを目指している。
産業機械のためのオープンコントローラに対する付加価値として、機械・操作員・CAD系・生産ネットワークという4つの側面を考え(図
2-1)、これらの側面から見て付加価値をいかに与えやすくするかという点からOSECアーキテクチャを議論した(図
2-2)。逆の見方をすれば、生産に関わる機械・操作員・CAD系・生産ネットワークという4つの事物を有機的に結合・融合するフィールドが、OSECアーキテクチャの目指すオープンコントローラにほかならない。
図
2-1 オープンコントローラに対する4つの側面
- 機械から見たオープンコントローラ
機械を制御するという立場から見たオープンコントローラへの付加価値を考えた。制御系のソフトウェア(補間・サーボなど)やハードウェア(モータなど)をいかに入れ替えるかという観点から、機能毎および実時間性への依存度毎に制御ソフトウェアの部品化をすすめ、これら部品化された制御ソフトウェアへのメッセージという形で標準的なインターフェイスプロトコル(OSEC
API)を定義した。
- 操作員から見たオープンコントローラ
生産における作業という立場から見たオープンコントローラへの付加価値を考えた。操作盤など操作系のソフトウェアをいかに容易に作ったり改良するかという観点から、必要な部分だけ入れ替えることによってマンマシンインターフェイスを構築していくアプリケーションフレームワークというソフトウェア手法を取り入れた。ここではオブジェクト技術によってモデル化された標準的な機械資源(マシンリソースオブジェクト)を対象に操作系のソフトウェアを開発することでソフトウェアの可搬性も追求している。
- CAD系から見たオープンコントローラ
設計から生産へという業務の流れにおけるオープンコントローラへの付加価値を考えた。CAD系で定義された形状に対して加工をいかに行うかという観点から、加工ノウハウのソフトウェア部品化を考え、こうした加工法を記述するための枠組みとして新言語OSEL
(OSE Language)を提案している。OSELにおける加工ノウハウのソフトウェア部品化の考え方は、現場における固有の生産技術をソフトウェア化し、ネットワークを利用して流通・調達する新たなビジネス形態へのパラダイムシフトを促すものでもある。
- 生産ネットワークから見たオープンコントローラ
生産現場における機械の運用管理という立場から見たオープンコントローラへの付加価値を考えた.特に生産ラインの稼働監視という観点に注目して、稼働情報の送出およびその収集、集計を行うインターフェイスプロトコルOFMP
(OSE Floor Management Protocol)を定義し、これをインターネット応用技術で取り扱う仕組みを提案している。なおプロジェクトの進行状況により,本ドラフトでは限定的な開示となる.
図
2-2 OSECアーキテクチャにおける4つの視点
- アーキテクチャ策定における基本方針
OSECアーキテクチャを策定するにあたり、基本的な方針として留意したのは以下の点である。
- 既存の技術を最新の技術で淘汰する革新的(Revolutionary)なアプローチではなく、既存の技術をベースに最新の技術を利用して発展させる進化的(Evolutionary)なアプローチをとること。
- ソフトウェアを指向したアーキテクチャであること。さらにInteroperability(相互接続性)・Expandability(拡張性)・Scalability(実装規模の選択性)・Portability(可搬性)を保証するために、ソフトウェアを機能や目的に応じて部品化することを積極的に考える。こうしたソフトウェアの部品化は、カプセル化(内部構造の隠蔽)を行いやすくするため、企業や個人が個別に独自の付加価値をつけやすくすることにもなる。
- マルチプラットフォームに対応したアーキテクチャであること。マイクロプロセッサ・システムユニット・ネットワークなどのハードウェア、オペレーティングシステム・通信システムなどのシステムソフトウェアに関して、特定のものに依存したり必須の条件としない。
- 技術革新の激しいPC(パーソナルコンピュータ)のハードウェアおよびソフトウェアの技術や製品を有効に利用できること。デファクト(事実上の)標準品を利用したり、ネットワークインターフェイスカードなどのハードウェア製品や表計算などのソフトウェア製品など、既存の製品が容易に組み込めることはシステムを構成する上で重要な要素である。
- フィールドネットワークでのSERCOSやPLCでのIEC1131など業界で標準化がすすむ制御用コンポーネントへの対応を考慮すること。個々の業界標準を包含したアーキテクチャを目指す。
- 単に生産においてだけでなく、CAD/CAMを含めたエンジニアリング環境との整合性など、開発から設計へという垂直的な業務の流れにおける位置づけを考慮すること。
- 単独で稼動する機械の制御装置としてだけでなく、分散環境下にある生産現場で水平的に利用されることを想定すること。しかも機械の制御装置としてだけではなくCALSなどの統合化された開発生産環境における生産用端末として利用されることも考慮する。
- 基盤となる技術
- オブジェクト技術
- デジタル制御
- 分散制御
- アプリケーションフレームワーク
- Java
- フィーチャーベースモデリング
- インターネット/イントラネット
- OSEC-Iとの関連
OSEC-Iで得られた成果である『アーキテクチャ参照モデル』と『FA機器記述言語:FADL』はOSEC-IIで次のように発展された。
OSEC-Iにおけるアーキテクチャ参照モデルは設計データから加工までの情報の処理手順を明確にしたもので、生産システムにおける処理を、入力処理を主に行う階層・演算を行い軌跡を創成する階層・制御を主とする階層など7階層に分類している。今までブラックボックスだったCNCを含めての処理階層の分類であり、各階層で処理すべき内容が定義された。しかし実際のコントローラを実装するにはあまりに抽象度の高いモデルである。そこでOSEC-IIでは、抽象的な参照モデル(OSEC-I)、機能とインターフェイスプロトコルが明確に定義されたアーキテクチャモデル、そして実世界のハードウェア・ソフトウェアに直接マッピング可能な実装モデルという3段階での具現化を考えた。制御系ソフトウェアの部品化や操作系ソフトウェアから見た機械資源のモデル(マシンリソースオブジェクト)はここでのアーキテクチャモデルを対象に考えられたものである。
OSEC-IにおけるFA機器記述言語FADLは産業機械の主として制御を目的に考えられた言語で、特に工作機械のためには従来のEIAコードに代わる用途を考えた。EIAコードに欠けていた、表現の柔軟性・拡張性と加工プログラムの可搬性の向上を狙っていたものである。OSEC-IIにおける加工法記述言語OSELはさらに一歩踏み込んで、工作機械を活用していく上での加工のノウハウがソフトウェア部品として流通・調達できるよう、加工法のクラスライブラリ化に焦点を絞った。CAD/CAMとのインターフェイスを考えて、穴・溝といった加工特徴に対しての加工法の与え方の議論がなされた。コンピュータのプログラミング言語への類似を求めるなら、さしずめEIAコードが低級なアセンブラ言語、FADLが柔軟性・拡張性に富んだC言語、OSELがよ
り抽象度が高められ、さらなるソフトウェアの部品化が可能なオブジェクト指向言語C++、といった位置づけである。
- 成果と課題
コントローラのオープン化はエンドユーザ・機械メーカ・コントローラベンダ・ソフトウェアベンダ・システムインテグレータなど、それぞれの立場に応じてそれぞれの意義を持っている。エンドユーザにおいては、まず機械導入時イニシャルコストの透明化、機械設備を変更する際の機械を構成するユニット単位の更新によるライフサイクルコストの低減、ユーザ自身による独自なFAシステム設計の実現といった点で、従来の専用CNCによる機械全盛の時代には無かったメリットをもたらす。機械メーカにおいては、CNCを構成する各機能ブロックが部品化しその選択範囲が広がることによって、環境や仕様に合った最適な部品選択が可能になり、部品コストや開発コストの削減につながる。更に独自仕様の機能開発、エンドユーザが要望するFAシステム設計へのオプショナルな対応がより柔軟に実現できる。コントローラベンダに
おいても、インタフェース公開とその標準化およびオープンコントローラによる標準的なプラットフォームの確立によって、異業種ソフトウェアベンダの参画がうながされるといったメリットがある。
以上のようなコントローラのオープン化の意義を踏まえ、OSE研究会では4つのワーキンググループを中心にオープンアーキテクチャの詳細について検討し、試作とテストを行ってきたが、この結果OSEC-IIとして以下のような成果を得ることができた。
- マシンフレームワークによるマンマシンインターフェースシステムの開発
送り軸・主軸・工具・ATCなど工作機械の持つ様々な資源を論理的に分析し、各資源の属性・機能を明示的に定義してオブジェクト指向関連図(ORD)にまとめ、これらの抽象的なモデル(マシンリソースオジェクト)をもとに機械系へ働きかける操作・表示系用のクラスライブラリとソフトウェア開発システム(マシンフレームワーク)を開発し、機械操作画面を数例試作して実機へ組み込み評価を行った。オブジェクト指向プログラミングを全面的に採用しており、部品の組み合わせで短期間に効率良く表示・操作画面を開発できることが実証された。またマシンフレームワークとCNC制御部は、リソース制御と呼ばれる機能ブロックを介して情報交換換が行われており、ハードウェアへの依存性が低く、試作した表示・操作用のアプリケーションソフトは他のテストステーション上でも動作可能で、ソフトウェアの再利用性が立証された。
- OSEL言語の開発
加工ノウハウの組み込みの可能な新しいNC言語OSELの言語仕様について検討し、加工特徴に対応した加工法を記述するクラスライブラリ・個別の機械に依存するクラスライブラリ・工具のクラスライブラリの3つのクラスライブラリを試作し、実機で加工プログラムを実行して機能を確認した。
- マシン制御へのインターフェース仕様と言語プロセッサの作成
軸移動等を生成するためのマシン制御へのインターフェース仕様をOSEC
APIとして定義し、ライブラリの形で実装してみた。またこのマシン制御インターフェース仕様に合わせたEIAコードデコーダとOSEL実行系を作成し、マシン制御ライブラリと結合して従来のNCプログラムおよびOSEL-Xプログラムを実行し、ワークを加工して動作を確認した。
- サーボ制御部へのインターフェース仕様の作成
サーボ制御とのインターフェイスをOSEC APIとして定め、この仕様に合わせてマシン制御とサーボ制御のソフトウェアを開発し、サーボドライブと接続して正常に動作することを確認した。
以上に述べた内容の詳細については、OSEC-IIのドキュメントおよび実証システムの展示会を通じて一般公開することにしている。
一方、現在においても幾つかの克服すべき課題が残されている。
- マルチベンダにより提供される機能の組合わせによるシステム不具合、すなわちシステムエンジニアリングの問題については触れられていない。
- システムの不具合により事故を引き起す場合の責任の所在、すなわち製造物責任の問題についても触れられていない。
- インターネットやイントラネットの応用はシステムリソースへの自由なアクセスを可能にし、CAD/CAM統合や電子商取引きなど多くのメリットをもたらしてくれるが、その反面、外部からの不法侵入などセキュリティに関する問題は解決されていない。
これらは今後の課題であるが、OSECで研究を進めているオープンコントローラのアーキテクチャ化や標準化が解決に貢献するものと考えている。もちろんそのためには、同様の先端技術の標準化に取り組んでいる分散オブジェクト技術のOMG、製品データの標準交換形式のSTEP、CALS、そして同じオープンコントローラのOMACやOSACAなど幅広い国際的に協調した研究開発作業が不可欠である。