1. OSECアーキテクチャの理念

  1. アーキテクチャのねらい
  2. アーキテクチャ策定における基本方針
  3. 基盤となる技術
  4. OSEC-Iとの関連
  5. 成果と課題
  1. アーキテクチャのねらい

OSECアーキテクチャでは、エンドユーザ・機械メーカ・コントローラベンダ・ソフトウェアベンダ・システムインテグレータなどが、独自の付加価値を容易に加えるための標準的なプラットフォームとなる産業機械のためのオープンコントローラを定義することを目指している。

産業機械のためのオープンコントローラに対する付加価値として、機械・操作員・CAD系・生産ネットワークという4つの側面を考え(図 2-1)、これらの側面から見て付加価値をいかに与えやすくするかという点からOSECアーキテクチャを議論した(図 2-2)。逆の見方をすれば、生産に関わる機械・操作員・CAD系・生産ネットワークという4つの事物を有機的に結合・融合するフィールドが、OSECアーキテクチャの目指すオープンコントローラにほかならない。

2-1 オープンコントローラに対する4つの側面
2-2 OSECアーキテクチャにおける4つの視点
  1. アーキテクチャ策定における基本方針

OSECアーキテクチャを策定するにあたり、基本的な方針として留意したのは以下の点である。

  1. 基盤となる技術
  2. OSEC-Iとの関連

OSEC-Iで得られた成果である『アーキテクチャ参照モデル』と『FA機器記述言語:FADL』はOSEC-IIで次のように発展された。

OSEC-Iにおけるアーキテクチャ参照モデルは設計データから加工までの情報の処理手順を明確にしたもので、生産システムにおける処理を、入力処理を主に行う階層・演算を行い軌跡を創成する階層・制御を主とする階層など7階層に分類している。今までブラックボックスだったCNCを含めての処理階層の分類であり、各階層で処理すべき内容が定義された。しかし実際のコントローラを実装するにはあまりに抽象度の高いモデルである。そこでOSEC-IIでは、抽象的な参照モデル(OSEC-I)、機能とインターフェイスプロトコルが明確に定義されたアーキテクチャモデル、そして実世界のハードウェア・ソフトウェアに直接マッピング可能な実装モデルという3段階での具現化を考えた。制御系ソフトウェアの部品化や操作系ソフトウェアから見た機械資源のモデル(マシンリソースオブジェクト)はここでのアーキテクチャモデルを対象に考えられたものである。

OSEC-IにおけるFA機器記述言語FADLは産業機械の主として制御を目的に考えられた言語で、特に工作機械のためには従来のEIAコードに代わる用途を考えた。EIAコードに欠けていた、表現の柔軟性・拡張性と加工プログラムの可搬性の向上を狙っていたものである。OSEC-IIにおける加工法記述言語OSELはさらに一歩踏み込んで、工作機械を活用していく上での加工のノウハウがソフトウェア部品として流通・調達できるよう、加工法のクラスライブラリ化に焦点を絞った。CAD/CAMとのインターフェイスを考えて、穴・溝といった加工特徴に対しての加工法の与え方の議論がなされた。コンピュータのプログラミング言語への類似を求めるなら、さしずめEIAコードが低級なアセンブラ言語、FADLが柔軟性・拡張性に富んだC言語、OSELがよ り抽象度が高められ、さらなるソフトウェアの部品化が可能なオブジェクト指向言語C++、といった位置づけである。

  1. 成果と課題

コントローラのオープン化はエンドユーザ・機械メーカ・コントローラベンダ・ソフトウェアベンダ・システムインテグレータなど、それぞれの立場に応じてそれぞれの意義を持っている。エンドユーザにおいては、まず機械導入時イニシャルコストの透明化、機械設備を変更する際の機械を構成するユニット単位の更新によるライフサイクルコストの低減、ユーザ自身による独自なFAシステム設計の実現といった点で、従来の専用CNCによる機械全盛の時代には無かったメリットをもたらす。機械メーカにおいては、CNCを構成する各機能ブロックが部品化しその選択範囲が広がることによって、環境や仕様に合った最適な部品選択が可能になり、部品コストや開発コストの削減につながる。更に独自仕様の機能開発、エンドユーザが要望するFAシステム設計へのオプショナルな対応がより柔軟に実現できる。コントローラベンダに おいても、インタフェース公開とその標準化およびオープンコントローラによる標準的なプラットフォームの確立によって、異業種ソフトウェアベンダの参画がうながされるといったメリットがある。

以上のようなコントローラのオープン化の意義を踏まえ、OSE研究会では4つのワーキンググループを中心にオープンアーキテクチャの詳細について検討し、試作とテストを行ってきたが、この結果OSEC-IIとして以下のような成果を得ることができた。

以上に述べた内容の詳細については、OSEC-IIのドキュメントおよび実証システムの展示会を通じて一般公開することにしている。

一方、現在においても幾つかの克服すべき課題が残されている。

  1. マルチベンダにより提供される機能の組合わせによるシステム不具合、すなわちシステムエンジニアリングの問題については触れられていない。
  2. システムの不具合により事故を引き起す場合の責任の所在、すなわち製造物責任の問題についても触れられていない。
  3. インターネットやイントラネットの応用はシステムリソースへの自由なアクセスを可能にし、CAD/CAM統合や電子商取引きなど多くのメリットをもたらしてくれるが、その反面、外部からの不法侵入などセキュリティに関する問題は解決されていない。

これらは今後の課題であるが、OSECで研究を進めているオープンコントローラのアーキテクチャ化や標準化が解決に貢献するものと考えている。もちろんそのためには、同様の先端技術の標準化に取り組んでいる分散オブジェクト技術のOMG、製品データの標準交換形式のSTEPCALS、そして同じオープンコントローラのOMACOSACAなど幅広い国際的に協調した研究開発作業が不可欠である。